極超音速機と宇宙技術 - NASA
(図 Speed is Life HTV-2 Reentry New ウィキメディア経由パブリックドメイン)
NASAでの極超音速研究の主な目的は、次のことを行う方法とツールを開発することです。将来に運用する極超音速機システムのために、基本的な物理学を適切にモデル化し、信頼できる物理学ベースの最適化ができるようにします。 研究は、極超音速飛行で最も困難な課題のいくつかを解決することに焦点を当て、アームストロング(Armstrong)のイノベーター[パイオニア的な技術者]は、いくつかの方法でこの研究に貢献しています。
- 適応誘導システムの調査。危険な状況を引き起こす可能性のある状態を検出し、補正操作を自動化できること。
- 高速の乗り物に対して、飛行計画設計を改善するための高高度環境のモデリング
- 高温絶縁性と高度な複合材料の設計
この研究により、高い信頼性で効率的な極超音速システムの開発が可能になります。
プロジェクトの概要
曳航式グライダーからの空中発進
この研究努力は、航空機によって牽引されるグライダー(glider)からロケットを発射するという概念を探求しています。 アイデアは、大型輸送機で高度まで牽引できる比較的安価な遠隔操縦グライダーを構築することです。 グライダーは、ペイロード(payloads)を軌道に打ち上げることができるブースター・ロケット(booster rocket)を搭載します。 ロケットの打ち上げ後、グライダーは牽引機とは独立して基地に戻り、再利用されます。 このアプローチはコストを大幅に削減でき、衛星を軌道に送る効率を改善します。
(Fig.1) 衛星やその他のペイロードを宇宙に投入するための新しいアプローチは、低コストの打ち上げサービスを可能にします (クレジットNASA)
現在までの作業: 独立した請負業者達により完了した3つの個別の技術的実現可能性の研究はこう示しています、この技術は、同様のサイズのロケットの垂直地上発射よりも大幅な性能の向上を達成できます。 アームストロング・チームは、運用面をテストし、飛行性能と操縦性を特徴づけるために、サブ・スケール(sub-scale)の研究モデルを設計および構築しています。 飛行試験と乗組員の訓練は、高度に牽引される単一胴体(fuselage)のグライダーで始まっています。
今後の展望: 将来の計画では、24フィートの翼幅を持つ1/3スケールのグライダー・モデルを組み立てて、曳航中の運用経験、性能と取扱い品質のデータを得る作業を継続する必要があります。 サブ・スケール・モデルからのロケット打ち上げを飛行実証するための計画が進行中です。
パートナー: ホイッティンヒル・エアロスペース(Whittinghill Aerospace)は、フェーズIII SBIRの下で、この空中発射飛行の実証用のロケットを製造しています。
利点
- より経済的: 単純な遠隔操縦グライダーを使うことは、複雑な推進力や動力飛行機の乗務員に必要な生命維持システムなしで、安価な空中発進プラットフォームを提供します。
- ペイロードの増加: 牽引されたグライダーは、専用の動力飛行機の2倍以上のペイロードを運ぶことができます。
- より安全: 牽引機の後方1,000フィート以上で牽引される遠隔操縦グライダーは、(他の空中発射の方法論と比較して) ロケット・ブースターに固有の高エネルギー・システムからの、実質的な安全防御界(safety perimeter)を提供します。
高度補正ノズル(ACN)
ACN(Altitude Compensating Nozzle)プロジェクトの主な目的は、飛行試験と研究を通じて、デュアル=ベル(dual-bell)ロケット・ノズルの技術準備レベル(technology readiness level、TRL)を向上させることです。 このノズルは、設計高度以外の高度では非効率的な従来のベル(bell)ロケット・ノズルよりも、優れた性能を発揮すると予測されています。 明確なデュアル=ベル形状で、このノズルは低高度と高高度の両方に対して最適化できます。 その結果、ノズル・プルーム(plume)が大幅に過膨張するかまたは過小膨張することはなく、より高い推進効率が得られます。 統合されたロケットの性能を軌道全体にわたり検討するとき、デュアル・ベル・ノズルは、より高い総衝撃を達成すると予測されており、低軌道(low Earth orbit、LEO)へのより大きな質量ペイロードの配達をできるようにします。 現在努力しているのは、NASAのF-15でのキャプティブ=キャリー(captive-carried)飛行中の、デュアル=ベル・ロケット・ノズル操作の準備に焦点を当てています。これにより関連する飛行環境で、デュアル=ベル・ロケット・ノズル付きでの性能の利点を定量化できます。
(Fig.2) デュアル=ベル・ロケット・ノズル (クレジットNASA)
現在までの作業: 現在までの進捗状況は、主に次のことに焦点を当てています: (1) F-15飛行テストベッド(testbed)[実際の運用環境に近づけた実証試験]との統合を含む概念設計の開発; (2) 運用計画の概念の構築; そして、(3) 総ての最高レベルの目標と必要条件の初期定義。
今後の展望: 意欲的な5年の計画には、設計、分析、地上試験と飛行試験のフレームワークを含みます。
NASAパートナー: マーシャル宇宙飛行センター(Marshall Space Flight Center)
利点
- 経済性: デュアル=ベル・ノズルは、低軌道(LEO)へのペイロード質量の配達を最大5%増やすことが予測され、低軌道(LEO)へのペイロード送達のコストを削減するかも知れません。
- ロケット・エンジンの構造的完全性の向上: 低高度でのノズルの流れは大幅に拡張することはなく、これにより、ノズルプルームの流れ場の均一性、対称性、安定性が向上につながるかも知れません。
アプリケーション
- 軍事任務と訓練
- 法執行機関
- 国境監視
- 科学研究
極超音速機の高度な制御方法
この研究努力は、ローリング反転(roll reversal)が起こる前にそれを修正するソフトウェア制御アルゴリズムを開発することを目的としています。 ローリング反転は、航空機が一方向に操縦されているときに発生し、空気力学的条件の結果として反対方向にローリングします。 パイロットが元の方向にオーバーステアリング(over-steering)で動作を修正しようとすると、問題はしばしば複雑になり、制御不能なローリングにつながります。 予期しないヨーイング(yaw)とそれに続くローリング反転は、航空兼宇宙船(lifting body)のような乗り物の高速性の喪失の原因です。 チームは、航空機のローリング反転を引き起こす可能性のある状態を検出するために、適応コントローラー・テクノロジー(adaptive controller technology)内に新しい予測ソフトウェアを採用しました。そうして、壊滅的な損失を回避するために補正操作を自動化しました。
(Fig.3) 飛行中のHTV-2 (クレジットDARPA)
現在までの作業: ミシガン大学(University of Michigan)の遡及的コスト・モデル改良(retrospective cost model refinement、RCMR)制御アルゴリズムは、フライトシミュレーターに統合され、そしてローリング反転の異常を再現する、事前に記録され公開されている(open-source)パラメータのデータで、テストされています。
今後の展望: 次のステップでは、飛行試験環境での最終的なアプリケーションで、6つ程度のシミュレーション環境(前進/後進、上/下、左/右、ピッチング(pitch)、ヨーイング(yaw)、ローリング(roll) )を考慮して、遡及的コスト・モデル改良ソフトウェア(RCMR code)をアップグレードします。
追加説明図 (図 Yaw Axis Corrected ウィキメディア経由CC3.0 クレジット Yaw_Axis.svg: Auawise, derivative work: Jrvz (talk))
追加説明図 (GIF Aileron pitch ウィキメディア経由、Aileron yaw ウィキメディア経由、Aileron roll ウィキメディア経由 クレジットNASA) 左) ピッチング、中) ヨーイング、右) ローリング
パートナー:ミシガン大学、他の政府研究機関、航空宇宙企業。
利点
- 独立して動作する: 他の標準的な制御システムと同じでなく、この方法では、航空力学の事前の知識がなくても、航空機のローリング反転の補正と制御を許します。
- 安全性の向上: このテクノロジーは、制御されていないローリングにより発生する墜落を防ぐことが期待されています。
- エンベロープの増加: 遡及的コスト・モデル改良(RCMR)により、飛行機はより大きなエンベロープ[航空機の飛行可能な速度や荷重や高度の範囲]の上に安全に移動できます。
- フライト・エンベロープ: 飛行性 - Wikipedia
アプリケーション
- 極超音速ジェット
- 航空兼宇宙船型の宇宙船と再突入機(reentry vehicles)
極超音速機のための適応誘導アルゴリズム
この研究努力は、極超音速機用の適応誘導(guidance)システムの開発を探求しています。 従来、誘導は、有人および無人の極超音速機の両方について、飛行前に事前にプログラムされていました。 しかしながら、このオフラインの事前にプログラムされたアプローチは、航空機の空力形状の変化や熱的制約など、予期しない状況の出来事で最適ではありません。 適応誘導システムは、危険な状況を引き起こす可能性のある状態を検出できる予測アルゴリズムと、壊滅的な損失を回避するための自動化した補正操作が含まれます。
(Fig.4) 画像(アニメーションからキャプチャ)は、ペガサス(Pegasus)ブースターから分離した後のX-43A研究機を示しています (クレジット:NASA)
現在までの作業: 誘導と制御のアルゴリズムは、シミュレーターでテストされています。
パートナー: 国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency、DARPA)がこのプロジェクトに資金を提供しました。
利点
- 安全性の向上: 適応システムは、安全でない、そうか/または予期しない状況/環境を検出して補正できます。
- エンベロープの増加: このシステムにより、航空機はより大きなエンベロープの上に安全に移動できます。
- 燃料効率: システムは、最大燃料効率の飛行を維持するために、変化する条件に適応します。
アプリケーション
- 極超音速ジェット
- 一般的な航空機
高高度大気再構築
アームストロングの研究者達は、高速機の飛行計画設計を改善する目的で、高高度の大気環境をモデル化するための進行中の試みに参加しています。 上部成層圏(stratosphere)と下部中間圏(mesosphere)で関心のある主要な大気条件には、空気の密度、温度、風、圧力、そして予想される不確実性が含まれます。 高速航空機とその中の人々の安全を確実にする目的で、これらの条件を特徴づけて理解する必要があります。 信頼性の高い高層大気モデルは、速度と高度についてより良い飛行パラメータの選択に貢献し、超高速機に対してより速い、より安全な、より高い[高度]飛行をできるようにします。
(Fig.5) X-43A極超音速実験機、または飛行中の「Hyper-X」のアーティストの概念 (クレジットNASA)
現在までの作業: アームストロングは、次のものの飛行体制かまたは最良推定大気(best-estimate atmosphere、BEA)の大気再構築を提供しました。NASAのハイパー・エックス(Hyper-X)スクラムジェット(scramjet)デモ機、DARPAの極超音速テクノロジー・ビークル・ツー(Hypersonic Technology Vehicle 2)、米陸軍の高度な極超音速兵器のグライダー発射、そして、米国空軍のX-51極超音速スクラムジェット。 これらの各々のプロジェクトは、チームがモデリングとデータ収集機能を改善できるようにしました。
今後の展望: チームは現在、いくつかのプロジェクトを試みています: (1) 航空旅行を改善するために大気の乱気流(turbulence)を検出し緩和し、(2) パイロットへの放射線の影響をモデル化し、(3) 宇宙エネルギーが大気にどのように影響しているかを調査し、そして(4) 現場の大気測定のセンサーを開発し、これらのデータを適切なユーザーに送信します。
利点
- 効率の向上: 超高高度に対しての主要パラメータの理解に貢献します
- 安全性の向上: 設計者と計画担当者が、大気圏再突入(atmospheric reentry)と放射線被曝に関連するリスクを減らすのを支援します
アプリケーション
構造的に統合された熱保護システム(SITPS)
アームストロングの研究チームは、高い空力負荷(aerodynamic loads)と宇宙からの再突入により発生する高温の両方から航空宇宙機を保護するために、高温断熱性と高度な複合材料を独自の設計に組み合わせました。 この2つを兼ねた目的のサンドイッチ・パネル(sandwich panel)の設計は、熱的負荷と機械的負荷の両方を担い、そして極超音速機のエアロシェル(aeroshells)[小型制御ロケット付防護殻]の運用効率を向上させます。 従来の多目的極超音速機は、典型的に、機体を熱的に保護するために内部骨格を使用して機械的負荷に耐えつつ、非耐荷重性(non-load-bearing)の断熱システムを使用します。 アームストロングが開発した構造的に統合された熱保護システム(Structurally Integrated Thermal Protection System、SITPS)は、構造的にも体積的にも効率的な、組み合わされた高度な熱保護システムを提供します。 それは、高温のセラミック=マトリックス(ceramic-matrix)複合材料と軽量の断熱材を使用しています。 より強固なサンドイッチ・パネル内に断熱材を合体させることは、次の任務への機体準備に対して運用コストを大幅に削減できます。
(Fig.6) 構造的に統合された熱保護システム(SITPS) (クレジットNASA)
現在までの作業: チームは、特定の中核設計用に20x36インチ(約50x91センチメートル)のコンセプトパネルを製造するために、材料と工程を開発しました。そして、3つの別々の方法を使用して実験室で機械的にテストしました。 チームはまた、構造的に統合された熱保護システム(SITPS)の強度と熱性能特性の材料データベースを開発しました。 加えて、チームは、コンセプト・パネルの全体的な熱的および機械的性能を向上させるために、代替サンドイッチ・コア設計を調査しました。
今後の展望: 次のステップでは、湾曲した構造的に統合された熱保護システム(SITPS)パネルの製造に加えて、パネル端部の処置(closeouts)とパネル間の接合部の開発が含まれています。
NASAパートナー: ラングレー研究所(Langley Research Center)とグレン研究所(Glenn Research Center)
利点
- 堅牢性: 熱保護システム(Thermal Protection System、TPS)の耐久性が増すことで、メンテナンス時間が短縮されます
- 強さ: より高い構造効率を提供します
- 効率的: 熱性能と耐荷重性能の組み合わせで、機体重量の削減を許します
アプリケーション
- 多目的極超音速機
- 航空機の排気洗浄構造
----- 出典 -----
「Hypersonics and Space Technologies」は、掲載終了しております。
(後継記事)
www.nasa.gov(関連記事)
www.brainkart.comwww.dailypress.com
----- 2015/10/27公開、2017/08/17更新の記事を読んで -----
2021/08に後継記事が出されていますが、テクノロジーの進歩を見るにはちょうど良いのでアーカイブしておきます。
NASAが研究していることですから、一部の軍事機密を除いて、ほぼ最先端の人類のテクノロジーだと思います。
この中で地味ですが、最後の船体素材の開発はかなりなものです。スペース・シャトルの時代は、セラミック素材を船体の断熱材で採用していました。
現在、研究しているのは、どのような素材なのでしょうか。耐熱性を維持してサンドイッチにして貼り合わせ、耐久性を維持することはかなり難しい挑戦です。
----- パズルのピース -----
zzak.hatenablog.jpzzak.hatenablog.jpzzak.hatenablog.jpzzak.hatenablog.jpzzak.hatenablog.jp