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絶縁体における量子挙動の発見は、可能性のある新しい粒子を提示します


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絶縁体における量子挙動の発見は、可能性のある新しい粒子を提示します

(図 Data Pixabay)  (Fig.) アーティクル・イメージ

 

驚くべき発見で、プリンストンの物理学者達は、ジテルリド・タングステン(tungsten ditelluride)[2テルルタングステン]と呼ばれる物質[材料/素材]から作られた絶縁体で、予想外の量子挙動を観察しました。 量子振動(quantum oscillation)として知られるこの現象は、絶縁体よりもむしろ通常金属で観察されます。そしてその発見は、量子世界の理解への新しい洞察を提供します。 調査結果はまた、まったく新しいタイプの量子粒子の存在でのヒントになっています。

 

この発見は、金属と絶縁体の間の、長年の区別に挑戦します。何故ならば、確立された物質の量子論では、絶縁体は量子振動を経験できるとは考えられていなかったからです。

「私達の解釈が正しければ、量子物質の根本的に新しい形が見られます」と、プリンストン大学(Princeton University)の物理学の助教授で、この新しい発見を詳述したネイチャー(Nature)誌の最近の論文の上級著者のサンフェン・ウー(Sanfeng Wu)氏は述べています。 「私達は今、絶縁体に隠されたまったく新しい量子世界をイメージしています。過去数十年にわたって、私達は単純にそれらを特定できなかった可能性があります。」

量子振動の観測は、長い間、金属と絶縁体の間の違いの証明と見なされてきました。 金属で電子は、動きがとても高く、抵抗率 - 電気伝導(electrical conduction)に対する抵抗 -は、弱いです。 ほぼ一世紀前、研究者達は次の観察をしました。とても低い温度と相まって、磁場は、電子を「古典的(classical)」状態から量子状態にシフトさせる可能性があり、金属の抵抗率(resistivity)に振動を引き起こします。

この発見は、研究者達がジテルリド・タングステン(tungsten ditelluride)と呼ばれる物質を研究していたときになされ、彼らはそれを2次元の物質にしました。 彼らは、層を単分子層 - 単一の原子の薄い膜 - と呼ばれるまで、ますます剥離かまたは「剃る」ために、標準的なスコッチテープ(scotch tape)を使用して物質を準備しました。 厚みのあるジテルリド・タングステンは金属のように振る舞います。 しかし、ひとたび単分子層に変換されると、とても強力な絶縁体になります。

「この物質には、多くの特別な量子特性があります」とウー氏は述べました。

次に、研究者達は、磁場下での単層ジテルリド・タングステンの抵抗率の測定に着手しました。 驚いたことに、絶縁体の抵抗率は、かなり大きいにもかかわらず、磁場が増加するにつれて振動し始め、量子状態への移行を示しています。 事実上、この物質 - とても強力な絶縁体 - は、金属の最も顕著な量子特性を示していました。

「これは完全な驚きでした」と、ウー氏は述べました。 「私達はこう自問しました、『ここで何が起こっているのでしょうか』。まだ完全には理解していません。」

ウー氏こう指摘しました、この現象を説明する現在の理論はありません。

それにもかかわらず、ウー氏と彼の同僚は、挑発的な仮説を提唱しました - これは、中性に帯電した量子物質の一種です。 「とても強い相互作用(strong interactions)のため、この新しい種類の量子物質を生成する目的で、電子は自分自身を組織しています」と、ウー氏は述べました。

しかし最終的に、振動しているのはもはや電子ではありません、とウー氏は述べました。 代わりに、研究者たちは次のように考えています。彼らが「中性フェルミ粒子(neutral fermions)」と呼んだ新しい粒子は、これらの強く相互作用する電子から生まれ、そして、この大いに注目に値する量子効果を創る原因[責任]があります。

フェルミ粒子は、電子を含む量子粒子のカテゴリーです。 量子物質で、帯電したフェルミ粒子は、電気伝導の原因[責任]となる負に帯電した電子かまたは正に帯電した「正孔(holes)」の可能性があります。 つまり、物質が電気絶縁体ならば、これらの帯電したフェルミ粒子は自由に動くことができません。 ただし、中性の粒子 - つまり、負にも正にも帯電していません - は、理論的には絶縁体内に存在し、かつ移動することが可能です。

「私達の実験結果は、荷電フェルミ粒子に基づく既存の総ての理論と矛盾します。」と、論文の共同筆頭著者で、ポスドク研究員のぺンジン・ワン(Pengjie Wang)氏は述べました。「しかし、電荷中性フェルミ粒子の存在で、説明することができます。」

プリンストンのチームは、ジテルリド・タングステンの量子特性について、さらなる調査をする計画しています。 彼らは、自分達の仮説 - 新しい量子粒子の存在について - が有効かどうかの発見に、特に興味を持っています。

「これは出発点にすぎません」と、ウー氏は述べました。 「もしも私達が正しいのならば、将来の研究者達は、この驚くべき量子特性を備えている他の絶縁体を見つけるでしょう。」

研究の新しさと結果の仮定的な解釈にもかかわらず、ウー氏は、この現象をどのように実用できるかについて推測しました。

「将来的に中性フェルミ粒子は、量子計算(quantum computing)に役立つ情報をエンコードするために、使用される可能性があります」と、彼は述べました。 「それまでの間、私達はまだこのような量子現象を理解することの、とても初期の段階にあります。そうなので、根本的な発見を行う必要があります。」

 

チームには、ウー氏とワン氏に加えて、共同筆頭著者の、電気工学(electrical engineering)の大学院生のゴウ・ユー(Guo Yu)氏と、物理学の大学院生のヤンユ・ジャ(Yanyu Jia)氏が含まれていました。 他の主要なプリンストンの貢献者は、化学のレスリー・スクープ(Leslie Schoop)助教授;ロバート・カヴァ(Robert Cava)と、ラッセル・ウェルマン・ムーア(Russell Wellman Moore)化学教授;物理学の大学院生のマイケル・オナズザック(Michael Onyszczak)氏と、3名のポスドク研究員、シミング・レイ(Shiming Lei)氏、セバスチャン・クレメンツ(Sebastian Klemenz)氏、F.アレクサンドル・セヴァロス(F. Alexandre Cevallos)氏で彼も2018のプリンストンの博士卒業生(Ph.D. alumnus)です。 日本の物質・材料研究機構(National Institute for Material Science)のケンジ・ワタナベ(Kenji Watanabe)氏とタニグチ・タカシ(Takashi Taniguchi)氏もまた貢献しました。

 

「絶縁体におけるランダウ準位と移動性の高いフェルミ粒子(Landau quantization and highly mobile fermions in an insulator)」は、ぺンジン・ワン氏、ゴウ・ユー氏、ヤンユ・ジャ氏、マイケル・オナズザック氏、F.アレクサンドル・セヴァロス氏、シミング・レイ氏、セバスチャン・クレメンツ氏、ケンジ・ワタナベ氏とタニグチ・タカシ氏、ロバート J. カヴァ氏、レスリー・スクープ氏、そしてサンフェン・ウー氏により、14日にネイチャー (DOI10.1038 / s41586-020-03084-9)に掲載されました。

この研究は、主にプリンストン大学材料研究科学工学センター(Princeton University Materials Research Science and Engineering Center) (DMR-1420541DMR-2011750)CAREER(DMR-1942942)を通じて、国立科学財団(National Science FoundationNSF)によりサポートされていました。 初期の測定は、NSF協調協力(NSF Cooperative Agreement) (DMR-1644779)によりサポートされている国立高磁場研究所(National High Magnetic Field Laboratory)フロリダ州(Florida)で実施されました。 追加の支援は、日本の文部科学省(Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology)が実施した要素戦略イニシアチブ(Elemental Strategy Initiative) (JPMXP0112101001)日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science)科研費プログラム(KAKENHI program) (JP20H00354)と、科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency)CRESTプログラム(JPMJCR15F3)から提供されました。 さらなるサポートは、トポロジカル絶縁体(Topological Insulators)に関する米国陸軍研究所(U.S. Army Research Office)の学際的大学研究イニシアチブ(Multidisciplinary University Research Initiative) (W911NF1210461)、アーノルド・アンド・メイベル・ベックマン財団(Arnold and Mabel Beckman Foundation)は、ベックマン・ヤング・インベスティゲーター助成金(Beckman Young Investigator grant)を通じ、そして、ゴードン・アンド・ベティムーア財団(Gordon and Betty Moore Foundation) (GBMF9064)からありました。

 

 

----- 出典 -----

www.princeton.edu

 

----- 2021/01/11公開の記事を読んで -----

私達の周囲にある物質でも、原子が一列に並ぶような極端な状態になると、量子としての振る舞いが顔を出すことは興味深いです。日常とは異なる極限的な状態を上手く創り出すと、過去にもそうですが興味深いことが起こります。素粒子論、物性物理学、材料工学、化学などさまざまな専門家が関係したクロスオーバーな分野となるのでしょうか。

これからの時代、超高速計算のできるコンピューターとしては、全面的に量子コンピューターの時代に突入してゆくのだと思います。これに合わせて、新素材の開発は、そこで起こる素粒子の振る舞いがブレークスルーになるのかもしれません。

 

----- パズルのピース -----

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